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2004年 10月号 地質ニュース602号,717頁,2004年10月 Chishitsu News no.602, p.717, October, 2004 第1図 地層処分の概念 (資源エネルギー庁2003年発行のパンフレッ ト 「高レベル放射性廃棄物の処分について」 ) . 1. はじめに わが国では電力の約3割が原子力発電により賄 われており,その結果生じる使用済み核燃料は, 有用資源であるウラン, プルトニウムを分離回収し た後に,廃液を高レベル放射性廃棄物ガラス固化 体 (特定放射性廃棄物) として,地層処分することを 基本方針にしている. ガラス固化体とされた高レベ ル放射性廃棄物は,金属製の容器 (オーバーパッ ク) に密封され,地下300m以深の地層中に埋設さ れる.容器から放射性核種が漏出しても周囲に拡 散しにくいように,容器と地層との間には粘土を主 成分とする緩衝剤が充填される. このような人工 的に放射性核種の動きを抑制するシステムを人工 バリアと呼び, それを取り囲み放射性核種を生物 圏から隔離する機能をもつ安定した地層を天然バ リアと呼んでいる.地層処分システムはこの人工バ リア及び天然バリアからなる多重バリアにより,長 期間にわたり安全が確保できるように設計される (第1図) . 1976年に原子力委員会において,高レベル放射 性廃棄物に関しては地層処分に重点をおく とする基 本方針が出されて以来,長年にわたり行われてき た地層処分研究の成果と技術的到達点は,2000年 レポー トと呼ばれる 「わが国における高レベル放射 性廃棄物地層処分の技術的信頼性」(核燃料サイ ク ル開発機構, 1999) にまとめられている. 翌2000年には特定放射性廃棄物の最終処分に 関する法律が制定され,地層処分の実施機関であ る原子力発電環境整備機構 (NUMO) が設立され た.高レベル放射性廃棄物の地層処分は,いよい よ事業としての実施段階に入ったといえる.そし て,この地層処分事業にかかる安全規制は, 2001年に設立された原子力安全・保安院が規制 深部地質環境研究セン ターの地層処分研究 -背景と第1期中期計画- 1)産総研 深部地質環境研究セン ターキーワード高レベル放射性廃棄物,地層処分, データベース,地 震,火山,熱水,天然バリア 笹 田 政 克1) 笹 田 政 克 8 地質ニュース602号 当局として,内閣府にある原子力安全委員会と ともに行うことになっている. さて,高レベル放射性廃棄物には長寿命の核種 が含まれているため,地層処分においては十分に 長い期間安定な地層に廃棄物を埋設する必要があ る.通常の原子力施設では,実験による検証とい う経験的な手法により安全性が確認されるが,た とえば将来10万年にわたる長期間に高レベル放射 性廃棄物処分場が安全であるかどうかは,通常の 工学的手法だけでは判断できず,長期間にわたる 地球の変化を研究の対象としてきた地質学の領域 での判断に負うところが大きい.処分場が将来に わたり火山活動や断層運動の影響を受けないか, また,過度な浸食により埋設物が露出するようなこ とはないか,将来に起こる可能性のあるこのような 地質現象の影響を評価するには,過去の地質現象 の法則性の理解と,現在の地球内部で起きている ダイナミ ックな現象についての理解に基づく安全評 価モデルが必要である. また,放射性核種が人工 バリアから漏洩した場合の,地層中での長期にわ たる核種移行過程については,将来に起きる可能 性のある地質現象の影響をも考慮にいれたモデル で,評価する必要があるであろう. このように地層 処分システムの安全評価を行うには,地質学の役 割が極めて大きい. 2001年に設立された深部地質環境研究センター では,国の安全規制を技術的に支援する立場か ら,高レベル放射性廃棄物地層処分の安全評価に 必要な地質学的課題についての研究を行ってい る.小文においては,地質調査所時代からの地層 処分研究の流れを振り返るところから始め,現在 行っている深部地質環境研究センターの研究につ いて,地層処分事業の実施と安全規制という枠組 みの中で述べていきたい. 2.旧地質調査所での地層処分研究 2001年に産業技術総合研究所 (産総研) が設立 される以前,旧地質調査所においては旧科学技術 庁予算による高レベル放射性廃棄物安全研究と, 資源エネルギー庁の解析・評価費による研究が実 施されていた.原子力委員会により地層処分の研 究開発計画として,①有効な地層の選定,②処分 予定地の選定,③処分予定地における処分技術の 実証,④処分場の建設・操業の4段階が示された 1985年に,旧地質調査所は専門的な見地から貢献 することが求められ,原子力平和利用技術の研究 として 「高レベル放射性廃棄物の深層隔離に関す る地質学的研究」 を開始した. この研究を含めこれ 以降の原子力平和利用技術の研究 (旧科学技術庁 予算) での高レベル放射性廃棄物の研究は,原子 力安全委員会放射性廃棄物安全規制専門部会に よる高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画の 中で位置付けられ,他の研究機関との分担,協力 の下で実施された. これらの研究のうち 「高レベル放射性廃棄物の 深層隔離に関する地質学的研究」(1985-1989) , 「高レベル廃棄物の地層処分に関する岩盤中の核 種移行現象の実証的研究」(1990-1995) ,「高レベ ル放射性廃棄物の地層処分に係わる地層物質に よる地下水質変化に関する地球化学的研究」 (1996-2000) では,天然バリアの水-岩石反応,透 水性,地下水質及びナチュラルアナログの研究が 実施され, また 「高レベル放射性廃棄物処分施設 安全性評価のための地質環境の長期安定に関する 研究」(1988-1992) ,「高レベル放射性廃棄物地層 処分に関する地殻変動及び低確率天然事象の研 究」(1994-2000) では,地層の長期安定性評価の ための地殻変動,巨大噴火の研究が行われた. さ らに,「高レベル放射性廃棄物地層処分のための地 質環境の特性の広域基盤情報の整備」 (1998- 2002,2001年以降は産総研地圏資源環境研究部 門で実施) では,沿岸地域における塩水-淡水境 界についての研究が実施された. 一方,資源エネルギー庁からの解析・評価費で は,原子力環境整備センターにおける事業との関 連で 「放射性廃棄物処分高度化システム確証試験 に伴う解析・評価」(1994-1998) が実施されてい たが,1998年から3年間は,地層処分の事業化を 間近に控え, 「放射性廃棄物地層処分事業化調査 に伴う地層処分システムの解析・評価」 の研究が, 予算規模を大幅に増額して実施された. この研究 は,広域的な地質特性及び地質変動の時空分布, 変化等の実例を把握して,地層処分事業が実施さ れた時に,実施主体によるサイ ト選定に対して,国 による確認に必要な地質のデータ及び知見の整備 深部地質環境研究セン ターの地層処分研究 -背景と第1期中期計画- 9 2004年 10月号 第2図 深部地質環境研究セン ターの組織体制と外部機関との関係. を行う ものであった. 3.産総研の研究センターとしての出発 わが国の場合,高レベル放射性廃棄物地層処分 における国の役割は,事業の監督 (資源エネルギ ー庁) 及び安全規制 (原子力安全・保安院) にある. 産総研の発足に伴い設立された深部地質環境研究 センターは,研究予算面では旧地質調査所時代の 資源エネルギー庁からの解析・評価費を引き継ぐ 形で,原子力安全・保安院からの委託費を受ける ことになった.従って,現在の深部地質環境研究 センターにおける研究の目的は,国による安全規制 を技術的に支援することにある. ただし,研究成果 はすべて公開されるので,深部地質環境研究セン ターの一次成果物が,地層処分に関連する諸機関 で活用されることは, なんら妨げられないし, また, 多くの機関で活用されるような研究成果を生み出 す研究センターになっていきたいと願っている次第 でもある. さて,深部地質環境研究センターは35名の研究 者で発足している.工業技術院時代の研究所との 関係でみると,地質調査所から地質学,鉱物学,地 球物理学,地球化学,水文学,地質工学の研究者 が,資源環境技術総合研究所から資源工学,名古 屋工業技術研究所から鉱物学の研究者が参加して いる.当初,研究者は専門別に9つのチームに編成 された. その後2回ほど組織の見直しを行い,現在 は第2図に示すように8チーム編成となっている. 産総研では研究ユニッ トは研究センター,研究部 門, ラボ等からなる.研究センターが社会ニーズの 高い特定の課題を担当し, ト ップダウンマネージメン トにより運営されるのに対し,研究部門は広い研 究領域をカバーしボトムアップを基調に運営されて いる.産総研発足当初,地質分野は深部地質環境 と活断層の2つの研究センターと,地球科学情報, 地圏資源環境,海洋資源環境の3つの研究部門か らなり, これに地質調査情報部,国際地質協力室, 地質標本館等を加えたものが,地質調査総合セン ター (旧地質調査所の研究範囲をカバー) を構成し ていた.組織の見直しが頻繁に行われている産総 研では,現在の地質調査総合センターのユニッ ト構 成は,地質情報研究部門,地圏資源環境研究部 門,活断層研究センター,地質調査情報センター, 地質標本館及び当センターと,発足当初と異なって いるが,深部地質環境研究センターは当初から, こ れらの地質分野のユニッ トの協力を得ながら,研究 活動を進めてきている (第2図) . 産総研� 深部地質環境� 研究センター� センター長�長期変動T 深層地下水T 地球物理T 地殻物性T 地質総括T 地質情報T 地球化学T 化学反応T 副センター長� 総括研究員� 事務マネージャー� 地質情報� 研究部門� 地圏資源環境� 研究部門� 活断層研究� センター� 原研� JNES JNC 東電� 大学� 評価部� 委託研究評価委員会� 地層処分関連研究� 連絡部会� 深部地質環境� セミナー� 深部地質環境� 研究センター� 研究発表会� 大学� 北海道大学� 新潟大学� 東京大学� 東京工業大学� 名古屋大学� 京都大学� 広島大学� 島根大学� ・・・・� 放射性廃棄物� 規制解析� センター� (�CNWRA米国)� 地層処分国際� 研修センター� (�ITC スイス)� チーム長会議� 委託� 客員研究員� 研修員の派遣� 外部評価委員会� 研究員31名(博士21名)� 委員� 委員� 併任� 原子力安全 ・ 保安院� 原子力安全基盤� 機構� 核燃料サイクル� 開発機構� 笹 田 政 克 10 地質ニュース602号 4.地層処分の事業展開 2000年に設立された地層処分の実施主体である 原子力環境整備機構 (NUMO) は,電力会社の出 資により作られた認可法人で,経済産業大臣の監 督の下で地層処分事業を実施している.処分事業 は文献調査から始まり,概要調査,精密調査へと 進み,最終処分施設建設地の選定が行われる.処 分場の事業許可申請が出された時点で,国は安全 審査を行い,事業許可の判断をする.そして認可 が下りると,処分場の建設が行われ, さらに安全審 査を経て廃棄物を地中に運び入れる操業に至る. 最終的には処分場は閉鎖され, その後極めて長期 間にわたる受動的な管理にゆだねられることにな る.現在作られているタイムテーブルでは,最終処 分場の建設は2030年代の後半とされており , さ らに それから50年にわたり操業が行われる.地層処分 はこのように世代を越える長期にわたる事業であ るので,意思決定についても段階的に行うことが 必要であるといわれており,世代間に不公平が生 じないように今後の事業展開がなされるものと思 われる. 2002年12月にNUMOは,市町村を対象に 「高 レベル放射性廃棄物の最終処分施設の設置可能 性を調査する区域」 の公募を開始した. この原稿 を執筆している2004年5月の時点では,応募はま だ見られないようであるが, いくつかの自治体で検 討が行われていると新聞は伝えている. 地層処分事業の最初に行われる文献調査は,文 献資料により地震等の自然現象による地層の著し い変動の記録がなく , かつ将来にわたってそれらが 生ずるおそれが少ないと見込まれること等を確認 する調査であり,応募地区及びその周辺地域を対 象にして行われる. この文献調査の結果に基づき, 概要調査地区が選定される.概要調査では, ボー リング調査,地表踏査,物理探査等が実施され, これらの調査により地層が長期間にわたって安定 していること,坑道の掘削に支障がないこと,地下 水流等が地下施設に悪影響を及ぼすおそれが少 ないと見込まれること等が確認され,精密調査地 区が選定される.精密調査では,地上からの詳細 な調査に加えて,地下の調査施設での測定・試験 が実施される.これらの調査により地層の物理 的・化学的性質等が最終処分施設の設置に適して いること等が確認され,最終処分施設建設地が選 定される. これらの調査の枠組みについては特定 放射性廃棄物の最終処分に関する法律に述べら れている. しかし, この法律には安全規制についての記述 がなく ,安全の確保に関する法律は別途定めるこ ととされている. この安全規制についての法律を 作成するのが,原子力安全・保安院である. 5.安全規制への研究支援 原子力安全・保安院が設立される以前からの組 織である原子力安全委員会においては,2000年に 高レベル放射性廃棄物の安全規制についての基本 的な考えをまとめており (原子力安全員会, 2000) , さらに概要調査地区選定段階で考慮すべき内容 を,環境要件としてとりまとめている (原子力安全 委員会, 2002) . 原子力安全・保安院においては,2002年3月か ら総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部 会廃棄物安全小委員会の中で,放射性廃棄物の安 全規制について法制面及び技術面からの検討を開 始した.そして1年後の2003年7月に 「高レベル放 射性廃棄物処分の安全規制に係る基盤確保に向 けて」 の報告書をまとめており (総合資源エネルギ ー調査会, 2003) , この中で統一的な安全評価の考 え方を述べるとともに,安全規制に必要な研究課 題及び支援研究体制について記述している. この報告書において安全評価事項を特定する にあたっては,経済協力開発機構原子力機関 (OECD/NEA) において作成された国際FEPリス ト (Feature特徴,Event出来事,Processプロセ ス) を用いている.FEP間の起因関係を解析する ことにより,1つの出来事がプロセスを経て次の出 来事を惹起し, それがさらに次のプロセス,出来事 を誘発するという一連のメカニズムを捉えることが できる. このような相関関係について,報告書では ① 「放射性核種の地下水による移行の相関関係図」 , ② 「将来の人間の行為 (能動的) の相関関係図」 , ③ 「地質及び気候関連事象の相関関係図」 のそれ ぞれにおいてFEPの関連付けがなされている. こ れらのうち①は処分システム領域からの放射性物 深部地質環境研究セン ターの地層処分研究 -背景と第1期中期計画- 11 2004年 10月号 質の移行プロセスそのものを表現しているのに対 し,②及び③は処分システム領域に対する外乱を 表現する性格が強い.なお,③ 「地質及び気候関 連事象の相関関係図」 の作成にあたっては,深部 地質環境センターが原子力安全・保安院に技術情 報の提供を行った (山元・小玉, 2004) . 規制機関が安全規制を行うには,安全評価事項 についての科学的知見の集積を図ることが前提と なる.そこで,報告書においては特に科学的知見 の集積が必要な研究分野を 「重要研究分野」(第1 表でABC区分のされている研究分野) として選定 し, さらに当面特に研究を促進すべき範囲を 「重点 研究テーマ」 として特定している (第1表) . 廃棄物安全小委員会の報告書では, また安全規 制を支援する研究の独立性についての見解を述べ ている.報告書においては,わが国では研究者等 の人的資源に制約があることから,支援研究機関 が実施機関との契約関係を持つことまで禁止する のは適切でないが,支援研究機関の内部からは勿 論,外部から見ても明白に把握しうる形で,実施機 関側からの業務を実施する部門と,安全規制の支 援研究を行う部門を分離することが必要であると 述べている. なお,米国, フランス, スウェーデンで は支援研究機関は実施機関との間に契約関係をも たないこととされており, また, フ ィ ンランド, ドイツ では実施機関側と契約関係を持つことは認められ るが支援研究機関の内部において研究者の分離や 研究部門を分離する等の措置を講じている. 原子力安全・保安院からの委託により安全規制 の支援研究を行っている深部地質環境研究センタ ーは,安全規制支援研究の独立性を確保する観点 から,実施機関であるNUMOからの委託研究を行 わないことを基本方針としている. 6.本格研究の視点 廃棄物安全小委員会において重要研究分野や 支援研究体制についての審議が行われていた 安全評価事項�区分�研究分野�重点研究テーマ� 放射性核種の地下水による� 移行の地下環境� 地質及び気候関連事象� 将来の人間の行為� 地表環境� C C C B B A C A 熱水活動による水文地質学的変化� 地震・地質構造の変形による水文地質� 学的変化� 浸食と堆積� 気候変動による水文地質学的変化� 社会的背景� 人間活動� 気候変化に伴う水資源の取扱� 人工バリア領域� 化学・核種移行領域� 物質移行に係る領域� 被ばく評価に係る領域� 全領域� 火山噴火・貫入� 地震動・地震断層� 母岩領域� 全領域� 巨大火山の噴火� 新規火山� 構造運動から生じる熱水活動� 活断層沿い以外の断層� 新規火山による地震� 人間活動分野全体� モデル化� パラメータデータ取得� モデル化� パラメータデータ取得� � 第1表 地層処分の重要研究分野 (廃棄物安全小委員会報告書に基づく) . 重要度区分ABCに関し ては本文10.及び11. を参照. 笹 田 政 克 12 地質ニュース602号 第3図 深部地質環境研究セン ターの本格研究. 2002年から2003年にかけて,産総研では吉川弘之 理事長のリーダーシップによる本格研究の議論が 盛んに行われており , それぞれの研究ユニッ トにお いて, この本格研究という理念のもとで研究を実施 するよう求められた.本格研究とは,知的好奇心 により動機付けられ,未知の現象を探索し理論や 法則を導き出す第1種基礎研究と,社会ニーズを 意識して既存の法則や理論を統合し,社会に役立 つ普遍的な知見を導き出す第2種基礎研究, さら には実用化にいたる開発からなるシナリオに基づ く連続的な研究のことをいい, この過程で作られる 社会に役立つものを 「製品」 と呼んでいる. 深部地質環境研究センターの場合は,原子力安 全・保安院に対して,地層処分事業の安全規制に 必要な技術情報を提供し,技術的サポー トを行う こ とが 「製品」 となる (第3図) .深部地質環境研究セ ンターにおける本格研究では, この 「製品」 に向け て第1種及び第2種基礎研究を,相互に関連付け ながら配置し,研究を推進している.地質現象を 対象にして実施している第1種基礎研究と, これま でに得られている地質学的知見とを統合して,規 制当局が利用できるような形の技術情報にまとめ ていく第2種基礎研究が,本格研究という視点から 見た当センターの研究実態である. 7.第1期中期計画 産総研は独立行政法人であるので,主務大臣で ある経済産業大臣から与えられる中期目標に対し て中期計画を作成し, その達成度で評価されるシ ステムとなっている.深部地質環境研究センターで は平成13年のセンター発足にあたり , それまでにわ が国に行われてきた地層処分研究をレビューし,地 層処分で必要とされる研究内容を長期的視点の下 で整理し,当面の研究を第1期中期計画 (2001- 2004年) としてまとめた. - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - (第1期中期目標) 深部地質環境の調査・研究 地層処分システムの安全性評価に関する国の施策に資す ために,評価手法・基準に関する地質の知見・データを整 備し,評価モデルを構築するとともに,地質特性長期変化の メカニズム等の技術資料の整備を図る. また,地質環境図 長期変動の影響評価� (学術論文・データベース)� 天然バリアの性能評価� (学術論文・プログラム� ・データベース)� 安全規制行政�安全規制研究� 産業技術総合研究所� 深部地質環境研究センター� 第1次成果物� 製品は安全規制行政への技術的サポート� 国� 民� の� 安� 全� 確� 保� インパクト�製品� ・国による安全規制の在り方の検討に� おいて、最新の地質学的知見を提供� ・国による安全審査において、地質学� に関連する部分をレビュー� 原子力安全・保安院� 行政ニーズ� 技術的サポー ト� 安全審査� 安全の確保の規制� についての法律� 原子力安全・保安部会� 廃棄物安全小委員会� 深部地質環境研究セン ターの地層処分研究 -背景と第1期中期計画- 13 2004年 10月号 類の作成などによって深部地質の情報を社会に提供する. (第1期中期計画) 深部地質環境の調査・研究 ・地層処分システムに関係する地球科学的知見・データの 取りまとめと分析を行い,安全性評価のための論理モデ ルを構築するとともに,地下水流動モデルや長期的な物 質の挙動のナチュラルアナログ等の研究を行う. ・東北南部の列島横断地帯及び地質項目毎の代表的地域 において,総合的な広域地質調査・解析を実施するとと もに,長期変化プロセスとメカニズムの抽出・検証,及び 定量的な影響評価解析・予測手法等の研究を行い,技術 資料等を整備する. ・既存公表資料を対象とした地質の隔離性に関する全国デ ータベースシステム,及び地質構造解析システム等のデー タ処理システムを構築する. ・深部地質の災害や環境保全に関する要素や指標を抽出 し, それらの地域分布に関する各種の地質環境図類を作 成し,分り易い形での情報発信を行う. - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 8.重点研究課題 上述の第1期中期計画に従い,深部地質環境研 究センターでは,地層処分の課題を中心に研究を 進めてきている. この研究の進捗状況に関して,産 総研では評価部による成果ヒアリングが毎年行わ れており,大学,研究機関,民間企業等からの外 部評価委員及び産総研の内部評価委員に,有益な 助言をいただいている (第2図) .成果ヒアリングの 議論は,研究ユニッ トの運営にフ ィ ー ドバックされる 形になっており,年度ごとの評価結果を参考にし て,当センターでは研究計画及び研究体制の見直 しを行ってきている. また,前述の原子力安全・保 安院における廃棄物安全小委員会で審議された研 究の重点化の視点,及び産総研の本格研究の視点 からも研究課題についての見直しを行っている. これらの見直しを経て,産総研発足時に作成され た中期計画は,3年を経過した現在,以下のタイ ト ルの4つの重点研究課題にまとめられている. ①地層処分にかかる地質データベースに関する 研究 ②地層処分にかかる地質現象の長期変動に関する 研究 ③地層処分にかかる天然バリアの性能評価に関す る研究 ④深部地質環境の研究 これらのうち①から③までは,原子力安全・保 安院からの委託費を中心にした研究予算で実施さ れており,④は産総研の運営交付金により賄われ ている.④は地質環境図の作成や災害時の緊急調 査等をその内容としており,地層処分には直接関 係しないので, ここでは内容の紹介を省略する. 委託費による研究のうち,①データベースの研究 は,全国をカバーする統合GISデータベース及び要 素データベースを構築することを,②の長期変動の 研究は,地震,火山,隆起・浸食,熱水活動等の 地質現象の長期予測及び影響評価を, そして③の 天然バリアの研究は,長期的に見た地質環境の隔 離性能評価を, それぞれ目標としている. また,中 期的な視点から見たこれらの研究の流れは,第4 図のように整理される.以下にこれら3つの重点研 究課題のそれぞれの内容について,地層処分事業 における安全規制と関連付けながら述べていく. 9.地質データベースの研究 地層処分事業では最初に文献調査が行われ,既 存の文献資料から対象地域の地層の変動記録等が 調査され, その結果に基づき概要調査地区が選定 される.原子力安全・保安院による安全規制を支 援する深部地質環境研究センターでは,概要調査 地区選定過程において文献調査の結果についての 確認が求められたときに備えて,地質データベース を整備してきている (渡部ほか,本特集号口絵) . 地質データベースは地質調査所時代の1999年 に,資源エネルギー庁予算によりその構築が開始 されたもので,2001年に産総研になるとき,原子力 安全・保安院からの委託費の中で,深部地質環境 研究センターのプロジェク トの一部として継承して きた.2003年段階でデータの格納は概ね完了して おり,現在利用に向けての準備に入っている (第4 図) . 地層処分の安全評価に用いる地質データベース には, それぞれの情報の網羅性とともに, それぞれ の情報の精度や品質管理が求められる. これらの 要求を同時に満たしたシステムを構築し,地質情報 笹 田 政 克 14 地質ニュース602号 の精度や定義等が客観的に参照できる条件を考慮 して, この地質データベースにおいては最も規格化 が進んでいる地質調査総合センター (旧地質調査 所) 発行物を対象として数値化,集約し,統合GIS データベースを構築するとともに, これとリンクする 形でいくつかの要素データベースを作成している. 統合GISデータベースには,地質調査総合センタ ー発行の地質図類として,50万分の1地質図,50 万分の1活構造図,20万分の1地質編集図,7.5万 分の1地質図,5万分の1地質図,海洋地質図,鉱 物資源図,火山地質図, 日本水理地質図, 日本油 田・ガス田図, 日本炭田図,地質環境アト ラス,活 断層ス ト リ ップマップ,200万分の1地質編集図,特 殊地質図,特殊地質図,空中磁気図,地熱地域等 重力線図が,2004年1月1日発行のものまで1,306 点が,GIS地図データと統合されて格納を完了して いる (渡部ほか,本特集号口絵) . 一方, 要素データベースは, 沿岸域音波探査DB, 温泉DB,岩盤物性DB,地球化学DB,火山長期 変動DB,断層長期変動DB,資源探査情報DB, 年代層序DBからなり, これらのうち一部はまだデ ータの入力作業が継続中である.なお,統合GIS データベース,要素データベースともに,新しいデー タが利用可能な状態になった場合は, それらを取 り込み,常に最新の状態に更新しておく必要があ る. その作業は今後も継続して行う予定でいる. この地質データベースは,地層処分事業におけ る文献調査結果の確認に,十分対応できる仕様に なっている.活断層,第四紀火山,未固結堆積物, 鉱物資源に関する基本的な地質情報が,基盤GIS データベースに格納されているほか,要素データベ ースにおいても,たとえば火山長期変動DBには 308の第四紀火山につき,位置データ及び8,543編 の付帯論文が格納されており, また,断層長期変 動DBには活断層・活構造全般について2,529編の 文献及びネオテク トニクスについての2,843編の文 献が格納されている. なお, この地質データベースには, もう一つの機 能として深部地質環境研究センターの研究へのサ ポー トがある.地層処分には地質学の広い分野が 関係しているので,研究を進めていく上で, これま でに公表されている図面類を電子ファイルとして, 研究者が使いやすい状態にしておく ことが必要で あるとともに,当センターでの研究の蓄積を将来の 第4図 委託研究 「地層処分にかかる地質情報データの整備」 ロー ドマップ. 「地層処分にかかる� 地質情報データの整備」� 地質現象の長期変動に� 関する研究 � � � 地震活動� 火山活動� 隆起・浸食� 熱水活動� 浅部天然バリア調査法・模擬実験整備等� 代表的事例研究� 代表的事例研究� 13 14 15 16 17 18 19 20 年度� 原子力安全・保安院� 天然バリアの性能評価に� 関する研究� 高レベル放射性廃棄物� 処分事業� 「概要調査地区」選定過程 「精密調査地区」選定過程� 概要調査地区選定� 精密調査� 地区選定� 技術情報の提供� 技術情報の提供� 地質データベースに� 関する研究� 統合GISデータベース� 産総研深部地質環境研究センター� モデル化・手法の定量化 調査地区への適用モデル化・手法の定量化 調査地区への適用��モデル化・手法の定量化 調査地区への適用� モデル化・手法の定量化 調査地区への適用モデル化・手法の定量化 調査地区への適用��モデル化・手法の定量化 調査地区への適用� 利用システム・要素データベース利用システム・要素データベース��利用システム・要素データベース� 深部天然バリア調査法・模擬実験整備等深部天然バリア調査法・模擬実験整備等��深部天然バリア調査法・模擬実験整備等� 深部地質環境研究セン ターの地層処分研究 -背景と第1期中期計画- 15 2004年 10月号 研究に活用できる形にしておく ことは大切なことで ある.文献調査以降においても,概要調査及び精 密調査に関連して,規制機関を支援するために行 う地質関連の研究をサポー トする機能をもたせて いく ことは必要である. このデータベースは今後と も規制側の研究を支援する基盤的な役割を果たし ていく ものと考えている. 10. 地質現象の長期変動の研究 はじめに述べたように,地層処分システムの安全 評価を行うには,地質学の役割が極めて大きい. 地層処分場の立地選定にあたって, まずもって避け なければならないのは火山噴火を伴うマグマの直 撃であり ,地震断層の出現によるサイ トの破壊であ る. このような破壊的事象とともに過度の浸食によ る埋設された高レベル放射性廃棄物の露出も, こ れらと同程度に危険な現象である. また, これらに 関連して立地選定で問題となるもう一つのことは, 地下水変動を通しての断層,火山,隆起・浸食, 熱水活動の処分場への影響である.地質現象の長 期変動の研究では, これら断層,火山,隆起・浸 食,熱水の将来にわたる活動の影響評価に取り組 んでいる. これまでのところ,地質現象の長期変動 について事例研究の成果が蓄積されつつあり,今 後はモデル化と手法の定量化に向けての研究を行 い,規制当局である原子力安全・保安院が処分事 業に節目ごとに関与するという仮定のもとで,安全 規制に必要な技術情報の整備を行う予定である (第4図) . 地質現象の長期変動は,廃棄物安全小委員会の 報告書では,処分システムに影響を与える 「地質及 び気候関連事象」 として扱っており, この報告書で は前述したように, 「地質及び気候関連事象」 の研 究について,それらのプライオリテ ィ付けであたる 重要研究分野の指定を行っている (第1表) .重要 研究分野としてはまず, 「地震動・地震断層」 の研 究を,立地選定においてそれらによる影響を完全 に排除できないことから,立地選定段階において 最も重要な研究分野 (早急に研究を推進すべきA 区分) に位置づけている. また 「火山噴火・貫入」 についての研究は,立地選定において排除できる 可能性は高いが,排除できなかった場合の影響が 大きいため,立地選定で排除できるよう知見を蓄 えておく必要があるという理由で,当面研究を推進 すべきB区分としている. さらに,「熱水活動による 水文地質学的変化」 及び 「地震・地質構造の変形 による水文地質学的変化」 を,中長期的に研究を 推進すべきC区分としている. 深部地質環境研究センターでは,廃棄物安全小 委員会の報告書を踏まえて,地質現象の長期変動 の研究テーマとしては,2004年度には,「活断層周 辺の地下地質及び地下水流動系の研究」 「低活動 度断層の研究」「岩石破壊,変形メカニズムの検証 と定量化に関する研究」 「水飽和状態における岩 石の変形・破壊プロセスとメカニズムの解明」 「東 北日本複成火山の時空分布と成因の研究」 「西南 日本の単成火山の時空分布と成因の研究」 「地下 水流動系の研究」 「熱水活動の研究」 「変質の類型 と地質変動要因に関する研究」 「複成火山におけ るマグマ輸送蓄積,熱拡散過程の研究」「隆起・沈 降の空間分布に関する研究」 「岩石の風化に関す る研究」 を実施している. 誌面の制約もあり, ここでこれらの研究すべて について内容の紹介を行うことができないので, ここでは 「低活動度断層の研究」 と 「熱水活動の研 究」(深部流体の研究) の2つのテーマについて紹 介する. 地層処分事業では,文献調査により既に認知さ れている活断層の分布域は候補地から外される. しかし, そのようにして選定された候補地が長期的 に安定であると判断できるかというと必ずしもそう ではない.活断層については,対象地域で十分な 調査が行われておらず,論文や調査報告がないケ ースもありうる. たとえば2000年に鳥取県西部で起 きたM 7.3の地震は, これまで活断層が認知され ていなかった地域に起こった地震で,地表6kmの 範囲で断層が出現している (小林・杉山,本特集 号) .活断層研究センター及び新潟大学の協力を 得て,地震の後に行ったトレンチ調査では,地震で 地表に現れたこの断層は実は過去に2回以上左横 ずれの運動をしていたことが明らかとなった. この ように活動度が低いために, まだ活断層と認知さ れていない断層は, このほかにも多数ある可能性 があるため,現在は低活動度断層の存在を把握す るための調査法等について研究を進めている. な 笹 田 政 克 16 地質ニュース602号 お,廃棄物安全小委員会の報告書の中では, この 低活動度断層に関して 「活断層沿い以外の断層」 という名称で,原因となる事象の発生場所や影響 の範囲についての知見がいまだ不十分であり,立 地選定で排除するためには,研究を特に促進する 必要があるとして,重点研究テーマに特定してい る. プレートが収斂する境界に位置するわが国は, 地震,火山,隆起・沈降の他にも,顕著な地質現 象が見られる. その中で,
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